【対談インタビュー】小松亮太×須川展也 “TANGO DREAM”
2023年6月16日(金)に大ホールで開催される「小松亮太×須川展也 “TANGO DREAM”」公演に向け、小松亮太さんと須川展也さんの対談インタビューが実現しました。お2人の馴れ初めから今回の公演について、そしてそれぞれの楽器のことや活動への想いまで、熱く、楽しく、たくさん語っていただきました。
〈聞き手=杉並公会堂 企画運営グループ〉
— しばらくぶりの再会と伺いました
[小松] はい。須川さんとは以前、「ハッピー・タンゴ・アワー」という企画でご一緒した2011年の高松や、2015年の岩国など、思い出深いコンサートを何度かご一緒させていただきました。そのあと、ピアソラの「天使のミロンガ」を僕がアレンジ(編曲)させていただいて…あれから4年くらい経ちますか。
[須川] 小松さんアレンジの「天使のミロンガ」は、NHKの番組などいろいろな場面で演奏させていただきました。今度は同じピアソラの「デカリシモ」もアレンジをお願いしまして、こちらもまたたくさん演奏できればと思います。
— 数々のご共演を重ねていらっしゃるお二人ですが、ご共演で楽しみにされていることをそれぞれお聞かせください。
[須川] 尊敬する世界の小松亮太と、タンゴの世界をご一緒させていただくこと、お話をいただいた時から今回もとても楽しみにしておりました。いわゆる「本物」の方の真横で演奏する経験というのは、「こんな感じかな?」ではなくて「こうだ!」という確信が得られる点において、演奏家にとって良い意味でとても大きな刺激になります。もちろんタンゴという音楽そのものも凄いのですが、そこに小松亮太という音楽家・人間が入ることで、伝統と小松さんの個性が混ざった凄みというのでしょうか、芸術を皆さんと共有できることの喜びというのでしょうか。
もともとタンゴのなかにサックスはそれほど登場しないので、本物の方のお許しを得て演奏に参加させていただく、そんな幸せもありますし、ご一緒させていただく度に、実はエッセンスを盗ませていただいております(笑)。
[小松] いきなり話が大きくなっちゃいましたね(笑)。須川さんとご一緒するたびに思うこととして、まず、サックス奏者というのはバンドネオンとは対照的に、世界中どこの国にもそれなりに活躍されているプロの奏者が多くいらっしゃいますし、その水準があまりにも高いので、正直なところ誰が特別に上手いとか、我々もあまりはっきり分からないのです。ところが須川さんとご一緒すると、「ぁあっっヤバい!この方は特別だ!」と一発で分かってしまう。
しかしながら誤解が生じるところもありまして、須川さんとしばらくご一緒していると、「サックスというのは大体こんな音がして、あんなこともこんなこともできちゃうんだな」と思ってしまう。そして別の機会に、その譜面をサックス奏者の方に「じゃ、これお願いします」って渡すでしょ、ところが結構みんな吹けないんですよ。須川さんが上手すぎて、サックス一般に対する誤解が生じてしまう(笑)。須川さんとご一緒するときには、そんな幸せを実感しています。
唯一無二の「天使のミロンガ」
— 小松さんがアレンジ(編曲)したピアソラの「天使のミロンガ」や「デカリシモ」を、須川さんのレパートリーとして演奏されていると伺いました。これらの楽曲を小松さんが編曲することになった経緯はどのようなことだったのでしょうか?
[須川] 僕が頼み込んで、編曲してもらったんです(笑)。ピアソラ作品の編曲を小松さんに依頼することの狙いは、紛れもなくそれが「本物」だから。あとは、小松亮太の芸術性が感じられるものが欲しかった、というところです。
[小松] 芸術性!(苦笑)
[須川] まさに芸術性ですよ!「自分はこうやって書きたい」というビジョンを明確にお持ちだからこそ、ひとつ一つの音に込められた「こういう響きで」という思いが、こちらとしても分かるのです。まさに唯一無二の「天使のミロンガ」かもしれない。
お忙しい演奏家でいらっしゃる小松さんにアレンジを依頼することは、いろいろな意味で少し難しいかなと思っていたのですが、出来上がってみたらすごい作品を書いてくださるので、新たに「デカリシモ」も是非にとお願いしました。それどころか小松さんにレッスンをお願いして自宅に来ていただきましたが、その後しばらくコロナの時期で自宅にお呼びできていないので、また改めて、しっかりレッスンしてもらおうと思っています。
[小松] 「天使のミロンガ」はうまくいきましたね。その第2弾が、先ほどのお話しにあった「デカリシモ」ですが、今回の杉並公会堂でのコンサートでは、僕らのクインテット(小松亮太五重奏)に須川さんのサックスを加えたスペシャルアレンジで「デカリシモ」を演奏したいなと思っています。
— 小松さんは作曲もされますが、ご自身として作曲と編曲とではどんな違いを感じますか。
[小松] 作曲の方が編曲よりも大変ですね。ただ、作曲は生まれつきのものというか…できる人はできてしまうし、できない人はできない、ある意味残酷な世界だと思います。音楽大学で作曲の勉強をした人も、音楽理論などが全然わからないで作曲する人も、世の中にはどちらもいると思うのですが、作品の良し悪しにはあまり関係ないですね。
僕自身は、作曲の特別な才能があるとは思いません。できないときには本当にできないけれど、何かをとっかかりにして「あ、できた」ということもある。結局自分でもよくわからないんですよね。本職の作曲家の方からすると、僕の作曲はおそらく稚拙なことだろうと思います。ただ作曲の場合には、技術的に稚拙なところがあっても作品として良ければいい、素人臭かろうが「その素人臭いところが良い!」となればそれでOK、みたいな世界もあります。
これが楽器演奏だと、そうはいかないですね。肉体運動だから、とにかくこの音がこういう音色で出なくてはいけない、というのが厳しくありますから。
[須川] 今のお話を伺いながら、ご本人はそうはおっしゃらないけれど、小松さんは幼少から音楽一家で育ち、早い時期から音楽の素養を肌で感じていらっしゃる。そんな環境と天性の才能との両方でここまで来ていると思う。だからそこから閃(ひらめ)くものとして、たとえ理論が無くてもいいメロディを書けば、ご自分の演奏がそれを盛り立てていけるのだろうと思います。羨ましい才能です。
[小松] 逆に言えば、メロディが良ければ、他のところが素人臭くても、割と大丈夫かなという気がちょっとしてますけど(笑)。
[須川] その良いメロディが生み出せるかどうかは、ご本人の才能と環境、両方でできるものだと思いますよ。小松さんはもともと音楽家・芸術家としての才能をお持ちだからこそ、これだけ世界が動くのだろうと思います。本質は「タンゴの人・小松亮太」ではなく「音楽家・小松亮太」でしょうし、だからこそ小松さんがタンゴのスペシャリストであるという部分にすごく感銘するのです。というわけで、もちろん作品を書いていただきたい気持ちはとってもありますし、いつかぜひ作曲のお願いができればと思っています。
[小松] 僕、締め切りが無いと譜面が書けないんですよ。締め切りの設定をお願いします(笑)。
タンゴ本来の言語(ことば)に相当こだわって編曲しました。
— 「タンゴといえばピアソラ」といったイメージをお持ちの方も多いと思いますが。
[小松] ピアソラといえば、最近は特にクラシックの奏者や、時々ジャズプレイヤーが演奏するもの、というイメージもあると思います。何故そうなっているかというと、タンゴのミュージシャンが世界的にかなり少なくなってきているからです。これは僕が自分で調べたのですが、日本人のバンドネオン奏者は、1930年代から現在までだいたい85人くらい。クラシック奏者の人数とは比べ物にならない少なさですが、世界的にはこれでも多い方だと思います。
ピアソラはタンゴの作曲家なので、本来は「タンゴの様式や演奏法を知っているよ」という方が取り組んだ方が良いのですが、このところ世界的にも「タンゴのことは知らないけれど、ピアソラの音楽にだけは憧れている」という方々が演奏やアレンジをされるケースが90%以上ではないでしょうか。すると結果的に、我々のようなタンゴ・ミュージシャンからすると「え、なんでそんなことするの!?」「なんでこういう風にやらないの?」と感じてしまう不思議な状況が、正直たくさんあります。だからこそ、「天使のミロンガ」「デカリシモ」のアレンジにあたっては、「本当はこうやってアレンジするんだけどな」っていう部分に相当こだわりました。
[須川] 小松さんのこういった「タンゴの言語(ことば)」へのこだわりのようなものが、まさに「本物」ということですね。
[小松] でも、「タンゴは本来はこうなんです」という話をあんまりしても嫌われるので(笑)、そのへん気をつけなきゃ、っていつも思っているのです。須川さんは優しく理解してくださるし、気心が知れた仲なので大丈夫ですが(笑)。
そこに加えて、須川さんはもちろんクラシック音楽的な上手さもお持ちなのですが、いわゆるポピュラー音楽の感覚もご存じなのです。実はその両方の感覚をうまく行ったり来たりできる方じゃないと、タンゴの演奏はあまりうまくいかない。というわけで、須川さんとご一緒させていただくとき、ストレスを感じることは全くありません。
[須川] もう少し深掘りしますと、バッハ以降のゼクエンツ(反復進行)と、ピアソラのいわゆるツー・ファイブ(Ⅱ-Ⅴコード進行)ですね。ピアソラ演奏もジャズ・ミュージシャンも、身体の中に組み込まれた循環進行というのがありまして、そのあたりで共通した感覚があることに気づきます。サックスはアドリブも多いのですが、クラシックを勉強するとバッハまでやりますから、そこが繋がっていくような発見があるというか。
[小松] …っていう話ができる人が他にあまりいない、というか(笑)。
いま消えつつあるタンゴ、相当な危機感を持っています。
— お二人とも、自らの向き合う楽器やジャンルの「世界観を拡げる活動」を、とても精力的になさっていらっしゃいます。
それぞれの楽器の存在、そしてさまざまな取り組みへの想いなど、お聞かせください。
[小松] いま浜松駅前にある浜松市楽器博物館で、バンドネオンという楽器が生まれてから廃れるまでを、僕の監修で全部キャプションを付けて展覧会をやっています。
※小松亮太監修 蛇腹楽器展 「おくり魅かれる風・音色~バンドネオンの謎と真実~」 2023年5月9日(火)まで開催
— 「廃れるまで」って、もう既に廃れてしまったのですか?
[小松] 正直に言いますと、今ほんとにヤバいです。もはや首の皮一枚なのではないでしょうか。先ほども話したように、バンドネオン奏者が少ないというより、もはや居ないに等しい。いまそこから何とか復活しようと、いろいろと頑張っているところです。
もともとバンドネオンはドイツで生まれ、田舎の民謡を演奏するようなフォークロアの楽器でした。ところがそれがアルゼンチンに渡り、アルゼンチンタンゴの楽器になります。その後、第二次世界大戦の影響でバンドネオンの製作がストップしてしまった。19世紀半ばに誕生した楽器ですから、サックスと同じくらいの歴史ですが、状況はサックスとは正反対と言えるのではないでしょうか。
サックスはベルギーで生まれましたが、ジャズの世界に入ったことで、もはやジャズの楽器というくらいに世界中でポピュラーな存在となり、活躍の幅が広がりました。一方でバンドネオンは、そうはいかなかったのです。タンゴという音楽は、第二次大戦のおかげで成長した音楽ジャンルといえます。ところがバンドネオンという楽器は、第二次大戦のせいで潰れた楽器なのです。非常にアイロニックな歴史を持っている。
[須川] サックスが何故ジャズの世界で広まったか、それはその人の持つインディヴィジュアル(=特有)な音を表現できるからです。もともといくつかの個性的な音を出した人がいて、そこから枝葉としてスタイルが多様化し、この世界を発展させました。例えばクラシックのサックスでは、マルセル・ミュール(1901-2001:フランスのサックス奏者)とか。ジャズはデキシーランドから始まりますが、チャーリー・パーカーの出現で生まれた世界もあれば、テナーサックスのコルトレーンなど違う世界もある。そういった大きな柱がいくつかあり、それぞれのスタイルが進化していきました。いわば、ジャズのスピリットがサックスのスピリットに合致したものがあったから、パッと花開いたわけですよね。
サックスの発展のうえで第二次大戦の影響は大きく、その時期にグレン・ミラーの音で世界中に広まっていった。戦時下での扱いに気を遣う必要のある弦楽合奏の替わりに、ヴィブラートを効果的に効かせるサックスに同じような役割が求められたのかもしれません。だからバンドネオンとサックスは、生まれた時期もほぼ一緒。第二次大戦の大きな影響を受け、それぞれの運命が方向づけられたというか。戦争は人間にとっては最悪のことですが、音楽の発展の上ではある役割を果たしたといえるでしょうか。
考えてみると、バンドネオンは演奏が難しいですよね。すごく素敵な楽器なのに、アマチュアが手軽に始めるにはちょっとハードルが高い。みんなが憧れ心惹かれるサウンドではありますが、演奏してみようかなと思ったら楽器がたくさんあるわけでもないし…難しいところですね。最初に取り組む上ではサックスはその反対で、演奏の難易度としては易しい部類ですし、楽器の値段もそれほど高くない。
とはいえ、小松さんの素晴らしい頑張りが、バンドネオンの魅力を着実に広めてくれるのではないかと。バンドネオンにしか出せない、唯一無二の素敵なサウンドがあるのですから。
[小松] 確かに、サックスは世界に広まった楽器だけに、演奏したい方にとって比較的始めやすい環境もあります。でもバンドネオンは、楽器も無ければジャンルも消えかかっているような状況です。タンゴって本当に、いま消えつつあるんですよ。ここ何年間かでも。
— え、「ここ何年かで」ですか!?
[小松] はい。というのは数年前までは、アルゼンチンのタンゴの巨匠と呼ばれた方々が80~90歳くらいで、まだ何とか生きていて、一部の方は演奏もしていました。現在はそういった方々がみんな亡くなった、あるいは引退したという状況です。そこに加えて、僕たちが20代の頃に奏法やスタイルを叩き込まれ、銀座や六本木のクラブで毎晩否応なく弾かされた、いわゆる伝統的な普通のタンゴがあります。僕よりも若い世代のアルゼンチン人のタンゴ・ミュージシャンは、こういった伝統的な普通のタンゴの演奏経験が全くない状態で、本場アルゼンチンで細々とタンゴを続けている。その結果、この部分はこうやって演奏するんだけどな、といった音楽づくりの伝統が世界的に消えてきています。もともとアルゼンチン人でもタンゴのことを知らない人は全く知らないのですが、その状況が最近エスカレートしてきた、世代交代をしてきた、そんな実感があります。
だから、タンゴを演奏して、お客さんが来てくれて、コンサートが成立する、というのをいつまで続けることができるだろうか、これで最後になってしまうことは無いだろうな、っていつも考えながらやっています。そのくらい、僕は危機感を持っているのです。
今回のテーマは「真髄と芽生え」
— 今回のコンサートは「TANGO DREAM」というタイトルがついています。披露される曲目として、お馴染みのピアソラ「リベルタンゴ」、そして有名な「ラ・クンパルシータ」、さらにチック・コリア「スペイン」などジャズの名曲もあります。どんなコンサートになりそうでしょうか。
[小松] 僕が今イメージしているのは、タンゴの「中身」をお客さまにしっかり感じていただけることをしたい。実は我々が普段からやっている、ジャズでもクラシックでもロックでもやらない演奏法というのがタンゴにはありまして、それらをお客さまに見て聴いていただき、「タンゴってこういう世界なのね!」ということを感じていただきたい。その上で須川さんにもご登場いただき、カッコいいところを披露していただきたいです。
今回参加する僕のバンド(五重奏)は、バンドネオン、ピアノ、ベース、ギター、ヴァイオリンの5名からなる「キンテート」という編成で、これはアストル・ピアソラが70~80年代に多くやっていた、いわば標準的な楽器編成です。キンテートはピアソラが考えた編成のように言われることがありますが、実はそうではなく、ピアソラよりも5歳くらい年上のオラシオ・サルガンという大スターのピアニストが始めた楽器編成です。今回そこに須川さんのサックスが加わるにあたり、アレンジにも工夫を凝らし、「このコンサートのためにわざわざ創った」というものにしたいですね。
サックスもバンドネオンも、構造的にはリードが鳴って音が出るという共通点がありますが、サウンド的にはバンドネオンが「いぶし銀」のような渋い例えをされる一方で、サックスは輝かしい金色のイメージ。その金色の感じは、普段はあまりタンゴには出てきませんが、サックスはタンゴととても相性が良いですから、須川さんの金色の音が似合うアレンジを用意できると思っています。
[須川] 私としては、いま小松さんがおっしゃった役割をしっかり務めたいと思いますが、一般的なタンゴのイメージとしては「情熱的に歌うメロディと、それを支える強いビート」ですよね。もっと言えばタンゴの持つ、その情熱的なメロディと、強いリズム・脈動は、人間の本能にダイレクトに刺さると思うのです。そこで、キンテートが奏でるタンゴの世界に、サックスでさらに濃厚な歌とリズムを加えさせていただき、熱く、燃える、そんなコンサートにしたいですね。
実はいま相談中なのですが、サックスとバンドネオンの2人だけの曲を、今回はじめて演奏できたらと思っています。
— とても楽しみです。最後に、お客さまにこれだけはお伝えしたい、ということがありましたらお願いします。
[小松] 今回は、アルゼンチンタンゴ中心でいきます。以前、アルフレッド・ハウゼなどイージーリスニング系のコンチネンタルタンゴが流行った時代がありました。当時、アルゼンチンタンゴとコンチネンタルタンゴの両方ブームになったということになっていますが、実はアルゼンチンは3割くらい、あとの7割くらいはコンチネンタルの方だったのです。この違いですが、例えばタンゴのダンス。多くの方がタンゴと聞いて連想するであろう、男女が組んでお互いにのけぞって踊り、時折クイッと首のポーズを決めるあのダンス。本場アルゼンチンタンゴにはあのようなダンスは全くありません。あれはタンゴから派生したヨーロッパのコンチネンタルタンゴのダンスです。それらがほぼ同時期に日本に入ってきたので、混同されるのも無理はないのですが。
しかもこの状況は日本に限った話でもなく、全世界的にイージーリスニング系のタンゴが流行ったことに加え、東欧の一部や日本においては、タンゴのリズムがその土地の民謡と結びつき歌謡曲化する、いわゆる「歌謡曲タンゴ」が流行った時代もありました。タンゴは世界各国で地域固有の影響を受け、カスタマイズされながらブームになっていたのです。
というわけで、本場アルゼンチンやウルグアイの人が考案した演奏法や楽器編成の、いわば本場のタンゴをやっていた音楽家というのは、実は世界的に非常に少ないのです。しかし日本は珍しく、戦後まもなくから本物のアルゼンチンタンゴをちゃんと聴きたいという一部のムーブメントがありました。おそらく「本物志向」という日本人の国民性なのですね。
[須川] とても興味深いお話しです。今のお話しで僕が感じる一番のポイントは、日本人は本物=真髄が好きだということです。パスタだってワインだって、日本人は入ってきたものをジャパナイズしてしまうと揶揄されることもありますが、結局そこから真髄を探り当てて、世界中の誰も叶わないレベルの美味しいものを創ってしまう。日本はそこにプライドを持てる国だと思います。
そこからすると、今回のコンサートは「真髄と芽生え」というのが一つのテーマになり得るのではと思いました。演奏する側はとことん本物=真髄にこだわりますが、聴く側のお客さまはその真髄に触れていただくなかで、何かが芽生えていただければ。この流れが、僕と小松さんを結びつける今回の役割かもしれません。小松さんのように、ある世界の全貌を理解されている方には、しっかりと真髄を伝えていただき、僕はお客様の芽生え・気づきのご案内役としてご一緒させていただく、という役割分担でしょうか。「真髄係」と「芽生え係」、みたいな(笑)。タンゴの世界ではサックスは亜流かもしれないけれど、僕なりにタンゴの真髄をリスペクトしつつ、かみ砕いて伝えていく伝道師のような役割を意識していきたいですね。
(2023年 杉並公会堂にて)
【公演情報】
小松亮太 × 須川展也
“TANGO DREAM”
2023年6月16日(金)19:00開演
杉並公会堂 大ホール